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西宮の防波堤でサバを釣る


2022年1月7日
西宮の防波堤でサバを釣る

ぼくは生まれてこのかた46年、釣りをしたことがありません。
ジョギングが趣味で、走っていると釣りをしている人をよく見かけますが、それはただの風景の一部にすぎません。
彼らに意識を向けて、どんな道具でなにを釣り、釣った魚をどうしているのかなんて考えたこともなかったのです。

ひょんなことで知り合ったHuercoのTさんとお酒を飲んでいたときのこと。

「まったく釣りをしたことがないんですか?」
と聞かれ、
「ないですね。魚といえば金魚を飼ってたぐらいです」

子どもたちが小さい頃に金魚すくいでとった金魚を長らく飼っていましたが、今年その最後の1匹が亡くなり、ぼくと魚とのささやかな関係は途切れました。

西宮の防波堤でサバを釣る

「あ、でも、料理はするので、魚はさばけますよ。3枚に下ろしたり。キズシ(シメサバ)が好きで、自分でサバを買ってきてつくったことがあるんですよ。まだつかりの浅い生っぽいやつが好きなんですけど、お店のはしっかりつかったものばかりなので」

そんな話をしていたら、サバならちょうど今の時期釣れてますよと。
ノルウェーの話か、はたまた東北の三陸沖かと思ったら、西宮の防波堤だといいます。
「自分で釣った魚でキズシをつくれますよ!」
などとのせられて、あれよあれよとサバを釣りに行くことになってしまいました。

西宮の防波堤でサバを釣る

12月初旬、ノルウェーほどではないだろうけど、西宮の海もかなり寒いはず。
手ぶらでいいからと言われたので、いちばん暖かい上着だけを羽織って待ち合わせ場所へ向かいます。
大阪市内からめざす西宮の防波堤までは車で1時間もかかりません。

途中、餌を買うために釣具店に立ち寄りましたが、壁一面に立てかけられた釣り竿、棚にびっしりと並ぶさまざまなルアーや仕掛けや使い道のわからない謎の物体。
「釣りたい魚や場所によって使う道具がそれぞれ違うんです」

西宮の防波堤でサバを釣る

釣具店の品揃えの豊富さは釣りの楽しみ方の多様性を表しているのでしょうが、むしろその多様性が我々釣りをやらない者には、なにから手をつけていいものやらわからないという、大きな壁になっているようにも感じます。

餌のアミエビを買って釣具店を後にし、西宮の防波堤へとやってきました。
平日にもかかわらず釣り人がちらほら見えますが、周囲ではクレーンや大型重機が大きな音を立てて作業をしていて、本当にこんなところでサバが釣れるのでしょうか。

西宮の防波堤でサバを釣る
西宮の防波堤でサバを釣る

Tさんがせっせと道具を用意してくれています。
「今日はサビキという仕掛けを使って釣ります」

西宮の防波堤でサバを釣る

サビキ釣りでは、まいた餌のなかに疑似餌を紛れ込ませて魚をだまして釣り上げます……
なんと恐ろしいことを考えるのでしょうか。
仕組み自体は違法カジノや詐欺師の発想ですよね。
釣りにはなんとなく牧歌的なイメージをもっていましたが、想像以上に深い闇を感じました。

さっそく釣り方を教えてもらいます。
さすがにリールをクルクルすると糸が巻き取られることは知ってましたが、逆に糸を伸ばすときにはストッパー(ベール)を外さないといけないことは知りませんでした。

西宮の防波堤でサバを釣る

あとは実践しながらと、たどたどしい手つきで仕掛けを海へ……落ちない。
針が手に刺さっています。
さすがに6つも針がついているので気をつけないとすぐに引っかかってしまいます。

気を取り直して、慎重に仕掛けを海に落とします。
餌のアミエビがカゴから溢れ出て海中に漂いながら、仕掛けはどんどん沈んでいきます。

西宮の防波堤でサバを釣る

海底に付いた感触があったので、ゆっくりと引き上げていきます。
ときどき竿を揺すってエサを海中にばら撒きます。
すぐにカゴの中身がなくなるので、引き上げてカゴに餌を詰めて海へ。詰めて海へ。

ほどなく竿の先が緩やかに曲がり、今までとは違う感触が手に伝わってきます。
伸びた糸の先が動き回り、生き物の存在をたしかに感じます。慎重にリールを回して糸を巻き取っていくと、海面のすぐ下に魚の姿が。
ずいぶん小さいのにしっかり手に感触が伝わってくるもんだなと思いながら、一気に釣り上げると……

西宮の防波堤でサバを釣る
西宮の防波堤でサバを釣る

サバでした。小さい……。
小さいけれども、この模様は紛れもなくサバです。
たしかに西宮の防波堤でサバが釣れました!

でも、このサバでキズシは難しくないかい?

その後はイワシ、カタクチイワシ、サッパ(ママカリ)、ボラなどが次々に釣れました。
3時間で15匹ぐらい。
時期的には少し遅かったらしく、もっと早ければ6個の針全てにいっぺんに魚がかかるなんてことも珍しくないのだとか。

釣った魚は、その場で天ぷらにしてもらいました。
ボラは食べないほうがいいとのことで、すぐに海へ放しました。
サバも天ぷらになりましたよ。

残念ながらサバは最初の1匹だけでしたが、サバを釣って食べるという目的は達することができたので、人生初めての釣りは大満足。ジョギング中に釣り人を見る目も今後は少し変わりそうです。

「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
片付けを終え、Tさんと車に向かいながら、
「今日はありがとうございました。いい経験になりました!」
「そうですか! 冬だとマス釣りもいいですよ!」
「マス……」
「そこも車ですぐに行けますから、来月ぐらいどうですか?」
「じゃ、じゃあ、行こうかな……」
というわけで、人生二度目の釣りも、そう遠くないうちに行くことになりそうです。

西宮の防波堤でサバを釣る
にぎりこぷし

にぎりこぷしイラストレーター/

Official Site twitter instagram

北海道出身。教育系出版社に勤務ののち、フリーのイラストレーターとして独立。大阪を拠点に、イラスト、マンガ、似顔絵、キャラクターデザインなど、幅広く制作を手掛ける。趣味はジョギング。公式サイトで連載する絵日記は2000年より毎日更新中。