生まれて初めて釣りに行き、西宮の防波堤でサバを釣ってからおよそ1ヶ月半、ぼくは人生二度目の釣りへ向かうため、待ち合わせの千里中央駅に降り立ちました。気温はほぼ0度……寒い。
前回同様、HuercoのTさんの車で釣り場へと向かいます。
「今日行くのはカンツリです」
田舎ってことかな?
もちろんそんなわけはありません。
カンツリとは「管理釣り場(略して管釣り)」のこと。釣り堀のように人工的に管理されている釣り場で、いろいろなタイプがあるようですが、今日行くのは高槻の摂津峡にある自然の川を利用した管釣りだそうです。
まもなく到着という頃になって雪が降ってきました。みるみる窓の外が白くなっていきます。
まさか雪の中で凍えながら釣ることになるとは。
「カンツリ」は管釣りでもカンツリーでもなく「寒釣り」だったか……。地獄絵図しか頭に浮かびません。
そうこうしているうちに、目の前に味のある建物が現れました。
ここで料金を支払うようです。
大人3,500円。
地獄への片道切符はなかなかいい値段します。
手続きを済ませていよいよ三途の川、ではなくて釣り場へ向かいます。
駐車場から階段を降りると目の前に川が現れました。
一定間隔でネットが張られて区切られています。各区画の間には魚が逃げ出さないよう石が積まれています。
それぞれの区画に魚が放流されていて、釣り人は指定された区画で釣りを楽しむシステムです。
雪はいよいよ強まり、景色も霞むほど。同行してくれたフィッシングガイドなどもされている松井さんがすぐさま焚き火を用意してくれます。
地獄に仏とはこのことです。
今回釣るのはニジマスとのこと。
川を覗き込むとウヨウヨ泳いでいるのが見えます。体長は20センチぐらいでしょうか。中にはかなり大きなものもいますが、とにかくかなりたくさんの数が放されています。
これだけいれば今回は楽勝だな。とっとと釣ってすみやかに帰ろうと、用意してもらった竿を握ります。
今回はルアーを使って釣ります。
ルアーというと魚の形に似せた擬似餌を思い浮かべますが、竿の先についているのは丸い金属板。スプーンと呼ばれる定番のルアーなのだそうですが、こんなんでほんとに釣れるのでしょうか。
さて、問題は釣り方です。
前回のサビキ釣りは指を離せば糸が勝手に出て仕掛けが海中に沈んでいきましたが、今回は竿を振ってルアーを対岸ギリギリまで飛ばさないといけません。
竿を振る強さ、角度、糸を離すタイミング、全てが整ってはじめて……あ、意外と簡単にできました。
リールを回すとルアーが水の中をウネウネしながらこちらへ戻ってくるのが見えます。その様子をニジマスが見ていて、お、1匹がルアーを追いかけてきた……パクッ。
さっそく1匹目のニジマスをゲット。
こんなにはっきり釣れるまでの一部始終が見えちゃうんだなと驚きつつ釣り上げました。
やはり今日は楽勝だな。
と思ったのも束の間、そこからちっとも釣れなくなります。前回も1匹目にすんなりサバを釣ったあとは苦戦しましたが、ビギナーズラックって1匹分しか適用されないきまりでもあるのでしょうか。
しばらくして、Tさんがルアーを交換してくれました。
同じルアーを使っていると魚が慣れてしまうので、こまめに交換したほうがよいのだそうです。
勝手に交換してくれていいですよとは言われましたが、手はかじかんでいるし、老眼で細かいところが見えないしで、かなり手こずります。
ルアーを交換してもなかなか釣れない状況が続き、焚き火にあたりながら長い一日になりそうだと途方に暮れていると、釣り場のおじさんがなにやら大きなバケツを持ってやってきました。
そして川原に寄っていったかと思うと、バケツの中身を川の中にぶちまけます。
追加のニジマスを放流してくれたのです。
ニジマスは別の場所で育てられていて、それを定期的に釣り場に放流しているのだそうです。
放流したてのニジマスはまだ釣られ慣れていないため釣りやすく、この放流直後がいちばん釣れるタイミングなのだそう。そうか、今までスレた性格のベテランを相手にしてたから釣れなかったのか。
さっそくフレッシュなニジマスに向けてルアーを飛ばすと、たしかに反応が違います。
ルアーを勢いよく追いかけてきて、釣れる釣れる。
とりあえず全員が2匹ずつ食べられる数を確保できたので、さばいて焼こうということに。
串刺しにして焚き火で焼いて食うというのです。
川原を汚してはいけないので、受付をした場所まで戻り、専用の水場でさばきます。
水がめちゃくちゃ冷たいのでビニール手袋的なものが必須です。
松井さんにお任せで、ぼくがやるわけではないんですけど。
まだ生きてピチピチしているニジマスの腹を割き、内臓を取り、串を刺します。
ブス、ブス、ブスという音が痛そう。最後に塩まで振りかけられる哀れなニジマス。
釣り場に戻り、焚き火にセット。火が近いとすぐに焦げてしまうので、遠火でじっくり焼いていきます。ちなみにこの台は松井さんのオリジナルアイテムだそうです。
そうこうしているうちに、魚が焼き上がりました。
……地獄絵図とはこのことだったか。
壮絶な死を遂げたニジマスの姿に思わず手を合わせ、お悔やみの言葉のかわりに「いただきます」と呟き、かじりつきます。
焚き火でじっくり焼いたおかげで、身はふっくら柔らかく、ヒレはパリッと香ばしく、頭も丸ごと食べられます。
煙の香りもいいアクセントになっています。うまーい。
というわけで、雪の高槻で無事にニジマスを釣って食べられました!
その後、おでんで暖まりながら、
「次はどんな釣りがいいですか?」
「……できれば近場の暖かいところが」
というわけで、人生三度目の釣りも行くことになりそうです。