「そろそろ釣り、どうですか?」
ひさしぶりにHuercoのTさんからお誘いがきました。前回、ウナギを釣りに行ったのは3年前の夏。ふだん釣りをしない初心者が釣りに挑戦する企画とはいえ、いささか間が空きすぎた感があります。ビギナーズラックはフル充電されていることでしょう。
「この時期だと、淀川でハゼがよく釣れます」
「へー、それって食べられるんですか?」
ハゼがどんな魚なのかもわからず聞いてみると、
「臭みもないし、おいしいですよ。釣れたら知り合いの飲み屋に持ち込んで料理してもらいましょう」
このところ軽めの断酒をしていて喉が渇き気味なので、これはなかなか魅力的な話です。ということで、今回の釣り企画は「淀川でハゼを釣って食って飲む」。淀川でのハゼ釣りは秋の風物詩なのだそうです。釣りをしない人間にはまったく耳に入ることのない風物詩。
10月の下旬、JRの塚本駅に集合します。
個人的にはまったく馴染みのない駅ですが、調べてみればJR大阪駅からたったの一駅。

というわけで、大阪駅を出た電車はほどなく淀川を渡り、最初の停車駅塚本で下車。駅前には商店街やら飲み屋やらがあって、釣りとは無縁な雰囲気を感じつつ、くねくねと住宅街の道を進んでいきます。
住宅街を抜けると、いよいよ堤防が現れました。堤防を越えた向こうが淀川です。しかし、その前に今日使う餌を調達します。堤防の手前にある民家風の建物。見れば「つりえさ」ののぼりが風になびいています。

入り口は閉まっていますが、インターホンを押すと開店するシステムのようです。聞けばかなり昔からある餌屋さんらしい。こんな場所でこんな商売が成り立つのだから、つくづく釣りというのは不思議なものです。
今日使う餌は「イソメ」だそうです。どんなものかはわかりませんが、餌を受け取るTさんの手元にチラリと見えたものがそれだとすれば、いささか不安です。
餌を手に入れたら、堤防を上り、下りて河原へと向かいます。河川敷を歩いていると、このあたりは昔マラソンの草レースで走ったことがあったなと、古い記憶が蘇ってきました。フルマラソンの折り返しがたぶんこのへんだったと思う。

川のそばまで寄ると、砂浜が見えてきました。淀川はだいたいコンクリートの護岸のイメージだったので、まさか砂浜があるとは想像していませんでした。この砂がここでハゼが釣れる所以なのかもしれません。

仕掛けは竿と同じ長さのものを選ぶのだそうです。仕掛けには針、おもり、ウキがついていて、餌を針に刺して、川に放り投げます。このあたりの水深は浅いので、餌は川底まで沈み、川の流れでズルズルと移動します。そこにハゼが食いつくということのようです。
ウキを使わなければ、ハゼが食いつく感触をよりダイレクトに感じることができます。また、リールを使えば、岸から離れたポイントを狙うこともできます。
まずはTさんにお手本を見せてもらいます。木箱から取り出した餌のイソメ。ミミズよりも少しゲジゲジしているでしょうか。まあ、なんとか触れるかな思って見ていると、Tさんは針に通したイソメを1センチほどのところでちぎりました。

「全部だと長いんで」
ちぎられ残ったほうのイソメは、元気にウネウネと動いています。
「ちぎってもしばらく生きてるんで使えます」
「……」
Tさんが竿を振ると、岸から数メートル先の川にイソメをつけた針先が沈み、浮きがゆっくりと下流に向かって流れていきます。しばらく進んだらいったん引き上げ、また投入。それを4~5回繰り返すと……
さっそく釣れました。初めて見るハゼ。体長10センチほどで、ヌルッとした体には透明感があり、なかなか可愛らしい顔をしています。


「じゃあ、やってみましょうか」
Tさんから竿を受け取り、まずはイソメ。パクパクする口に針を差し込み……(以下略)老眼のせいもあり少々苦労しましたが、なんとか装着完了。水際まで移動し、川に向かって投げ入れます。ハゼが食いつけば手に感触が伝わるとのこと。
川の中に岩がゴロゴロ転がっているようで、針先がそれらに当たる感触がときどき伝わってきます。それらしい当たりがないまま、引き上げては投げてを数回繰り返していると、明らかに今までとは違う感触が伝わってきました。引き上げてみると、おー、かかっている!
人生初のハゼを釣り上げました。可愛らしい姿で愛着が湧いてきますが、あとで食べるんだよな、とちょっと複雑な気分に。なんにせよ、食べて飲むためにはバンバン釣り上げなければなりません。さっそく次のハゼを釣るべく、イソメをつけ、竿を振ります。
2匹目、3匹目と比較的すんなりと釣り上げていると、なにやら足が……ふと気がつくと、靴がすっかり水に浸かっていました。ちょうど潮が上がってくる時間帯で、川岸がずいぶんと狭くなっていたのでした。このあたりは淀川でも海に近い汽水域で、潮の干満の影響が大きいようです。

浮きを外してみたり、リール付きの竿を使ってみたりと、いろいろ試しながら釣っていると、釣り上げたTさんが声を上げます。近づいて竿先を見ると、ハゼとは違うキラキラ光る小さな魚がかかっています。

「キスですよ!」
天ぷらでおなじみのキスでした。きれいな水に棲むキスがこのあたりで釣れるのはかなり珍しいそう。淀川の水質もかなりよくなっているという証でしょうか。

そんなこんなで、キス1匹とハゼを10匹ほど釣り上げることができました。酒の肴としてはまずまずの数でしょう、ということで、片付けてTさんの知り合いの店に向かいます。

ハゼとキスの唐揚げ。薄い衣の向こうに元気だった頃のハゼの姿がちらつきますが、なにせカラッと揚がっていてうまそうです。
さっそくひとつ食べてみると、フワッフワでうまい!骨がやわらかい!ヒレがパリッとしてる!臭みはまったくない!軽くていくらでも食べられそうです。これはビールが進む。こんなことならもっと釣りたかったと思いつつ、貴重な淀川産のキスもいただき、大満足。

淀川でのハゼ釣り、これは食べて飲むまでを含めて風物詩なのだと、胸と腹に深く刻まれた一日となったのでした。